NTT・KDDI・ソフトバンクの3社は、証券会社の画面では同じ「通信」「高配当」の棚に並びます。ところが決算短信を開いてセグメントまで下りると、稼いでいる場所も、利益率も、財務の厚みも、配当の約束の仕方も、3社でかなり違います。この記事では2026年3月期の決算短信と総務省の統計をもとに、3社の事業構造・収益源・株主還元・リスクの違いを横断的に整理します。特定の銘柄をすすめるものではなく、違いがどこに出るかを確認するための資料としてお読みください。


この記事の前提と、決算期の呼び方について

本記事の数値は、原則として2026年3月期(2025年4月1日から2026年3月31日まで)の通期実績です。

ひとつだけ紛らわしい点があります。NTTは同じ期間を「2025年度」と表記します。 KDDIとソフトバンクは「2026年3月期」と表記するため、3社の資料を並べると年度の数字が1つずれて見えます。対象期間は同じです。本記事では原則として「2026年3月期」に統一し、NTTの資料を参照する箇所では「2025年度」の表記を併記します。

もうひとつ、3社とも国際会計基準(IFRS)を採用しています。 日本基準の「経常利益」はIFRSに存在しないため、本記事でも扱いません(営業利益・経常利益・純利益の違い/決算短信の読み方)。


まず全体像|2026年3月期の3社を1枚で見る

細かい話に入る前に、規模と利益の出方を並べておきます。

項目(2026年3月期・連結) NTT(9432) KDDI(9433) ソフトバンク(9434)
売上高・営業収益 14兆4,091億円 6兆719億円 7兆387億円
前期比 +5.1% +4.1% +7.6%
営業利益 1兆7,062億円 1兆991億円 1兆426億円
売上高営業利益率 11.8% 18.1% 14.8%
親会社株主に帰属する当期利益 1兆370億円 7,071億円 5,508億円
自己資本利益率(ROE・開示値) 10.4% 14.0% 19.3%
自己資本比率(開示値) 20.8% 26.6% 16.0%
資産合計 46兆7,213億円 19兆634億円 18兆5,022億円
1株当たり年間配当金 5.30円 80.00円 8.60円
連結配当性向(開示値) 42.0% 43.6% 75.8%

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この表だけでも、いくつか引っかかる点が出てきます。

売上の順番と営業利益の順番が入れ替わっています。 売上高ではソフトバンク(7兆387億円)がKDDI(6兆719億円)を上回るのに、営業利益ではKDDI(1兆991億円)がソフトバンク(1兆426億円)を上回ります。

ROEが最も高い会社は、自己資本比率が最も低い会社でもあります。 ソフトバンクはROE19.3%と3社で最も高い一方、自己資本比率は16.0%と3社で最も低くなっています。この2つは無関係ではありません。後の章で扱います。

1株当たり配当金の3つの数字は、並べて比べてはいけません。 5.30円・80.00円・8.60円という差は、事業の差ではなく株式分割の履歴の差です。KDDIは2025年4月1日付で1株を2株に、ソフトバンクは2024年10月1日付で1株を10株に分割しています。分割の時期も比率も会社ごとに違うため、額面の比較には意味がありません。

※この章の数値は NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


事業構造の違い|セグメントまで下りると顔が変わる

3社の違いが最もはっきり出るのがセグメントです。報告セグメントの数からして、NTTが4つ、KDDIが2つ、ソフトバンクが5つと揃っていません。

NTT|通信・IT・地域・不動産エネルギーの4本立て

セグメント(2026年3月期) 外部顧客への売上高 構成比 セグメント利益 前期比
総合ICT事業(ドコモ等) 6兆1,462億円 42.7% 9,421億円 △7.7%
グローバル・ソリューション事業(NTTデータ等) 4兆7,547億円 33.0% 4,882億円 +50.7%
地域通信事業(NTT東日本・西日本) 2兆5,552億円 17.7% 3,074億円 +4.0%
その他(不動産・エネルギー等) 9,530億円 6.6% △16億円 -

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目を引くのは、主力であるはずの総合ICT事業(ドコモを含む)のセグメント利益が前期から7.7%減っている一方、グローバル・ソリューション事業が50.7%増えていることです。

ただしこの増加は額面どおりには読めません。グローバル・ソリューション事業の増益額1,643億円のうち、1,295億円はデータセンター資産保有会社株式の譲渡益です。NTTデータグループがデータセンター資産の一部を「NTT DC REIT」へ売却したことによる売却益で、決算短信にも営業利益に含めて計上した旨が明記されています。継続的な事業の伸びと、資産売却による一度きりの利益は分けて読む必要があります。

KDDI|個人向けに大きく偏った2セグメント

セグメント(2026年3月期) 外部顧客への売上高 構成比 セグメント利益 前期比
パーソナル(個人向け) 4兆7,556億円 78.3% 8,283億円 △2.1%
ビジネス(法人向け) 1兆2,923億円 21.3% 2,639億円 +12.2%
その他 240億円 0.4% 95億円 +27.0%

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3社のなかで最も構成がシンプルで、同時に最も個人向けに偏っています。 売上の78.3%がパーソナルセグメントです。そのパーソナルのセグメント利益は前期から2.1%減り、法人向けのビジネスが12.2%伸びて全体を支えた、という形になっています。

なお、当期のパーソナルセグメントでは減損損失534億円が計上されています(前期は73億円)。決算短信のセグメント情報に記載された数字で、利益の前期比を見るときの材料になります。

ソフトバンク|5つのセグメントに分散

セグメント(2026年3月期) 外部顧客への売上高 構成比 セグメント利益 前期比
コンシューマ(個人向け通信) 2兆9,961億円 42.6% 5,508億円 +3.8%
メディア・EC 1兆6,410億円 23.3% 2,404億円 △7.1%
エンタープライズ(法人向け) 9,701億円 13.8% 1,924億円 +13.0%
ディストリビューション 9,236億円 13.1% 353億円 +15.9%
ファイナンス 3,793億円 5.4% 863億円 +107.1%
その他 1,286億円 1.8% △629億円 -

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個人向け通信の比率が3社で最も低く、42.6%です。 全社の営業利益は前期比536億円の増加でしたが、その最大の押し上げ要因はコンシューマ(204億円増)ではなくファイナンス事業(446億円増)でした。

ここにも一度きりの要因が含まれます。メディア・ECのセグメント利益2,404億円には、LINE MAN CORPORATION PTE. LTD.の子会社化に伴う段階取得に係る差益444億円が含まれていると決算短信の注記に明記されています。

3社を並べて見えること、そして比べられないこと

セグメントを並べると、個人向け通信が利益の伸びを牽引している会社が1社もないことが分かります。NTTの総合ICT事業は減益、KDDIのパーソナルも減益、ソフトバンクのコンシューマは増益ですが、全社の増益額に占める比率では法人・金融の方が大きい。3社とも、利益の伸びは通信の外から来ています。

一方で、注意しなければならない読み方の落とし穴があります。

「非通信比率」を3社で単純比較することはできません。 セグメントの切り方が会社ごとに違うためです。たとえばNTTの総合ICT事業にはドコモの決済・金融などの非通信サービスが含まれており、「通信の売上」だけを抜き出した数字ではありません。KDDIのパーソナルにも金融・エネルギーが含まれます。同じ名前の指標に見えても、分子と分母の定義が揃っていない以上、順位づけには使えません。3社の非通信比率を並べた表を見かけたら、まず定義を確認するのが安全です。

※この章の数値は NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


モバイルと固定で構図が変わる|NTT東西が光ファイバー設備の56.3%を持つ

事業構造の次に、市場でのポジションを見ます。ここでモバイルと固定回線を分けると、3社の関係が同じではないことが分かります。

モバイル|MVNOを含めるかで景色が変わる

2026年3月末時点の移動系通信の契約数は2億3,142万(前年同期比プラス3.4%)です。事業者別シェアは次のとおりです。

事業者 シェア 前年同期比 MVNOへの提供分を含めたシェア
NTTドコモ 32.9% △1.0pt 39.5%
KDDIグループ 26.2% △0.4pt 31.4%
ソフトバンク 18.7% △0.5pt 24.6%
楽天モバイル 3.6% +0.4pt 4.5%
MVNO 18.5% +1.5pt -

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この表には、同じ100%を2通りに切った2つの列が入っています。左の列は自社ブランドとしての契約数のシェア、右の列はMVNOへ回線を提供している分まで含めたシェアです。MVNOは自前の通信設備を持たず、MNO(ここでは大手3社と楽天モバイル)から回線を借りてサービスを提供しています。

そのうえで読むと、よく語られる構図とは少し違うものが見えます。直近1年でシェアを最も伸ばしたのは楽天モバイル(プラス0.4ポイント)ではなく、MVNO(プラス1.5ポイント)でした。 大手3社が失った合計1.9ポイントの行き先は、ほぼMVNOです。

ただし、MVNOへ移った契約がそのまま3社の外へ出たとは限りません。MVNOは大手3社の回線を借りているため、3社は自社ブランドの月額料金を受け取る立場から、回線を貸す立場に移ることになります。右の列でNTTドコモが39.5%、KDDIグループが31.4%、ソフトバンクが24.6%と表示されるのは、そのためです。

もうひとつ、契約数の中身にも注意が必要です。移動系通信の契約数2億3,142万のうち5,953万は通信モジュール(機械に入っている回線)で、これを除いた契約数は1億7,189万です。契約数全体が前年同期比プラス3.4%と増えて見えても、人が持つ回線の伸びとは別の話になります。

固定回線|ここでは3社は対等な競合ではない

モバイルでは3社が横並びで競合していますが、固定回線では関係が非対称です。

2026年3月末のFTTH(光回線)の契約数は4,148万です。このシェアは、総務省の資料で2通りに集計されています。

集計のしかた NTT東西 NTTドコモ KDDIグループ ソフトバンク
設備設置事業者別(設備を持っているのは誰か) 56.3% - 10.7% -
サービス提供主体別(利用者に売っているのは誰か) 14.4% 17.7% 9.8% 12.1%

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同じ市場なのに、2つの行でまったく違う数字が並びます。 設備を持つ事業者としてのNTT東西のシェアは56.3%ですが、利用者へ直接サービスを売っている主体としては14.4%です。

この差を埋めているのが卸(サービス卸、いわゆる光コラボレーション)です。FTTHの契約数のうち54.3%(2,254万)が卸を利用して提供されており、NTT東西の卸によるものはFTTH全体の41.9%(1,738万)にのぼります。

つまり、利用者が他社ブランドの光回線を契約していても、その物理的な回線がNTT東西の設備であるケースが相当数あるということです。モバイルでは真正面から競合する3社が、固定回線では一方が他方から設備を借りる関係になっている。これは3社を「同じ条件で競争している3つの会社」として並べるときに、頭に入れておくべき構造の違いです。

NTTの光ファイバーインフラそのものについてはNTTの企業分析で詳しく扱っています。

※この章の数値は 総務省 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ(令和7年度第4四半期・2026年3月末)別紙 より


収益の質を比べる|利益率・ROE・自己資本比率の3点セット

規模の次は、稼ぎ方の質です。ここは3つの指標をセットで見ないと誤読します。

営業利益率はKDDIが最も高い(KDDI18.1%、ソフトバンク14.8%、NTT11.8%)。売上規模で最も小さいKDDIが、売上を利益に変える効率では3社で最も高くなっています。ただし利益率はセグメント構成の反映でもあります。ソフトバンクのディストリビューション事業(外部売上9,236億円・セグメント利益353億円)のように、売上規模の割に利益の薄い事業を抱えていれば、全社の利益率はその分だけ下がります。利益率の差がそのまま「経営の巧拙」を意味するわけではありません。

ROEはソフトバンクが最も高い(ソフトバンク19.3%、KDDI14.0%、NTT10.4%)。しかしこの数字は、自己資本比率と並べて読む必要があります。ROEは利益を自己資本で割った比率なので、自己資本が薄いほど同じ利益でも高く出ます。 ソフトバンクの自己資本比率は16.0%と3社で最も低く、ROEの高さはこの資本構成と切り離せません。ROEの水準だけを取り出して「最も効率的」と結論づけるのは早計です。指標の意味そのものはPER・PBR・ROEの基本ガイドで確認できます。

自己資本比率では、NTTの数字の読み方に注意が必要です。 NTTの自己資本比率は前期の34.0%から当期20.8%へ、1年で13.2ポイント下がりました。これは事業が急に傷んだからではありません。同じ期間に資産合計が30兆625億円から46兆7,213億円へ16兆円以上増えています。決算短信の注記にあるとおり、当期の連結範囲の重要な変更は住信SBIネット銀行株式会社の新規連結です。銀行を子会社にすると、預金などが負債として、貸出金や有価証券が資産としてバランスシートに乗るため、総資産が大きく膨らみ、結果として自己資本比率が下がります。

「自己資本比率が下がった=財務が悪化した」と機械的に読むと、この種の変化を見誤ります。 比率が動いたときは、分子(自己資本)が減ったのか、分母(総資産)が増えたのかを先に確かめるのが基本です。

なお、資本構成という点でもうひとつ3社で違うのは、ソフトバンクが普通株式のほかに社債型種類株式を発行していることです。決算短信の注記では、1株当たり利益の算定において社債型種類株式の配当金を控除する旨が示されています。この資本構成を持つのは3社のうちソフトバンクだけです。

※この章の数値は NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


配当方針の違い|配当性向の数字だけでは分からないこと

高配当株として語られる3社ですが、株主還元について何を約束しているかは3社でかなり違います。

項目 NTT KDDI ソフトバンク
2026年3月期の年間配当(1株) 5.30円 80.00円 8.60円
前期の年間配当(1株) 5.20円 145.00円(分割前) (分割の影響で単純比較不可)
連結配当性向(開示値) 42.0% 43.6% 75.8%
次期の1株当たり配当予想 5.40円 84.00円 8.80円
次期の配当性向(予想) 44.6% 42.8% 76.2%

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繰り返しになりますが、1株当たりの金額を3社で横に比べても意味はありません(株式分割の履歴が違うため)。比較に使えるのは配当性向のほうです。

そのうえで、方針として明示されている内容を並べると違いがはっきりします。

KDDIは数値基準を短信に明記しています。 「財務面の健全性を維持しつつ、安定的な配当を継続することを基本とし」たうえで、連結配当性向40%超を維持する方針としています。さらに次期以降の3ヶ年については、この配当性向の分母を「調整後当期利益」に変更すると明記しています。調整後利益とは、非経常的かつ大規模なコストやポートフォリオ見直しに伴う一時損益を除外した利益のことです。同じ「配当性向40%超」という言葉でも、分母が変わると意味が変わる点は押さえておく必要があります。

ソフトバンクは数値基準ではなく方向を示しています。 決算短信では、2027年3月期から2031年3月期における中期経営計画において、利益成長に合わせた普通株式1株当たり配当金の継続的な増配を目指す、としています。配当性向の目標値は示されていません。つまり75.8%という配当性向は目標ではなく結果の数字です。

NTTは決算短信のなかに還元方針の条文を置いていません。 実績としては1株当たり年間配当が5.20円(前期)から5.30円(当期)、2026年度予想が5.40円と増加が続いています。方針の詳しい表現については各社のIR資料をご確認ください。

配当だけを見ると、還元の全体像は見えません。 2026年3月期に自己株式の取得(自社株買い)へ実際に支出した額は、KDDIが4,000億円、NTTが2,049億円です。ソフトバンクは普通株式の自己株式取得を「重要性が乏しい」として財務活動キャッシュ・フローの「その他」に含めて表示しており、金額としてはほぼ計上がありません(同社の「子会社の自己株式の取得による支出」698億円は子会社による取得で、ソフトバンク自身の自社株買いとは別です)。さらにNTTとKDDIは、決算発表と同じ日に次の枠も決議しています。NTTは14億株・取得総額2,000億円を上限とする取得枠(2026年5月11日から2027年3月31日)。KDDIは146,000,000株・3,000億円を上限とする取得(トヨタ自動車と京セラから売却の意向を受けたことによる公開買付けと市場買付け)に加え、180,396,507株(消却前の発行済株式総数の4.31%)の消却です。配当性向が3社で最も高いソフトバンクは、その分だけ還元の形が配当に寄っていることになります。

配当性向という指標そのものの読み方、何%なら高いのかという目安については配当性向とは?計算式と目安、高すぎる株の見分け方で整理しています。高配当株全体のなかでの位置づけは高配当株ランキング、増配の継続性という観点からは連続増配株ランキングもあわせてご覧ください。

※この章の数値は NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


会社予想は「同じ土俵」ではない

各社が公表している次期の業績予想も並べておきます。ただし、この表はそのまま比べてはいけない表です。

次期の会社予想 NTT(2026年度) KDDI(2027年3月期) ソフトバンク(2027年3月期)
売上高・営業収益 15兆600億円(+4.5%) 6兆4,100億円(+5.6%) 7兆5,000億円(+6.6%)
営業利益 1兆7,100億円(+0.2%) 1兆2,100億円(+5.0%)※調整後 1兆1,000億円(+5.5%)
親会社株主に帰属する当期利益 9,800億円(△5.5%) 7,310億円(+2.7%)※調整後 5,600億円(+1.7%)
1株当たり当期利益 12.10円 196.29円 ※調整後 11.54円

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KDDIだけが「調整後」ベースで予想を開示しています。 調整後利益は非経常的かつ大規模なコストや一時損益を除いた数字なので、実績ベースで開示している他2社の予想と同じ土俵には乗りません。3社の増益率を並べて順位をつける、という読み方はできません。

この「土俵が違う」は、KDDI1社のなかでも起きます。 決算短信の同じ表には、2026年3月期の実績が調整後ベースで併記されています。調整後営業利益は1兆1,518億円、親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は7,120億円です。予想の1兆2,100億円・7,310億円は、この調整後の実績と比べて+5.0%・+2.7%になります。

⚠️ 本記事の実績表に載せた営業利益1兆991億円は調整前の数字なので、こちらと予想を割り算しても+5.0%にはなりません(+10.1%になります)。KDDIの予想の増減率を確かめるときは、比べる相手を調整後の実績に揃える必要があります。

そのうえでNTTの予想には、単独で見ても特徴があります。営業収益は4.5%の増収を見込む一方、親会社株主に帰属する当期利益は5.5%の減益予想です。 営業利益も0.2%増とほぼ横ばいで、税引前利益は5.2%の減少が見込まれています。増収でありながら最終利益は減る想定になっている点は、数字を見るときに押さえておきたいところです。

なお、業績予想はあくまで会社の見通しであり、確定した実績ではありません。 実績と予想を混ぜて語らないことは、決算を読むうえでの基本です。

※この章の数値は NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


設備投資とキャッシュの読み方|投資キャッシュフローは設備投資ではない

通信は装置産業です。基地局を建て、回線を敷き、維持し続けるために継続的な支出が必要になります。ここで使われがちな数字が投資活動によるキャッシュ・フローですが、これを設備投資額の代わりに読むと、3社の場合は特に誤差が大きくなります。

項目(2026年3月期) NTT KDDI ソフトバンク
営業活動によるキャッシュ・フロー 1兆4,852億円 1兆7,889億円 1兆3,938億円
投資活動によるキャッシュ・フロー △1兆234億円 △1兆805億円 △1兆2,708億円
決算短信に記載された設備投資額 2兆3,260億円 記載なし 7,453億円

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NTTでは、決算短信に記載された設備投資額(2兆3,260億円)が投資活動によるキャッシュ・フロー(1兆234億円の支出)の2倍以上あります。 投資キャッシュ・フローは資産の売却による収入や金融資産の動きも差し引きした後の純額なので、当期のようにデータセンター資産の売却があった年には、設備投資の実額とは大きく食い違います。

さらに、3社の設備投資額を横に並べることもできません。 定義が揃っていないためです。NTTは発生主義ベースで把握した金額から一部を控除して記載しており、使用権資産の増加額は含めていません。ソフトバンクは検収ベースで記載しています。KDDIの決算短信には設備投資額の記載がありません。

加えて、NTTとソフトバンクはどちらも銀行を傘下に持ちます(NTTは住信SBIネット銀行、ソフトバンクはファイナンス事業のPayPay銀行)。金融事業を含む会社の投資キャッシュ・フローには、設備投資ではない金融資産の売買が混ざります。 「投資キャッシュ・フローの大きさ=設備の重さ」という読み方は、この2社には当てはめにくくなっています。

※この章の数値は NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


リスクの違い|3社に共通するもの、会社ごとに違うもの

リスクは「共通のもの」と「その会社に固有のもの」を分けて整理すると見通しが良くなります。

3社に共通するもの

国内市場の頭打ち。 前述のとおり、契約数の伸びを支えているのは通信モジュールで、人が持つ回線の伸びしろは契約数全体の伸び率が示すほど大きくはありません。

料金に政治が関わること。 通信は電波という公共の資源を使う事業であり、料金水準は政策の影響を受けます。過去にも政府主導の料金引き下げがキャリアの収益に影響した局面がありました。3社のいずれか固有の問題ではなく、業界に共通する構造です。

新規参入と格安勢。 直近1年でシェアを最も伸ばしたのはMVNOでした。楽天モバイルの動向とあわせて、楽天グループの企業分析も参考になります。

設備投資が止められないこと。 通信インフラは維持・更新を止められません。景気が悪くても支出が続く構造は、キャッシュフローの安定性の裏返しでもあります。

会社ごとに違うもの

NTT|規模と多角化ゆえに、業績を動かす変数が多い。 通信に加えてNTTデータのシステム事業、データセンター、不動産・エネルギー、そして銀行まで抱えています。この構成は特定事業への依存を下げる一方で、通信以外の要因で業績が動く場面が増えることも意味します。当期の増益に資産売却益1,295億円が含まれていたこと、自己資本比率が銀行の連結で13.2ポイント動いたことは、いずれもその例です。また、NTTは政府が株式を保有する特殊会社であり、この点はNTTの企業分析で扱っています。

KDDI|個人向けへの集中度が3社で最も高い。 外部顧客向け売上の78.3%がパーソナルセグメントです。法人向けのビジネスセグメントは12.2%の増益と伸びていますが、売上構成比は21.3%であり、個人向け通信の環境変化が全社に及ぶ度合いは3社で最も大きい構造になっています。詳細はKDDIの企業分析をご覧ください。

ソフトバンク|配当の余力と自己資本の厚みが3社で最も薄い。 連結配当性向は75.8%(次期予想76.2%)で、自己資本比率は16.0%です。配当性向が高いこと自体は株主への還元が手厚いという意味でもありますが、利益が減ったときに同じ配当額を維持するための余裕は、3社のなかで最も小さいということでもあります。どちらの面を重く見るかは読む人の判断です。事業面の詳細はソフトバンクの企業分析で扱っています。

「3社に分ければ分散になる」と考える前に

3社は同じ国内市場、同じ料金規制、同じ人口動態の下にあります。加えて固定回線では、光ファイバーの設備設置事業者別シェアでNTT東西が56.3%を占め、FTTH契約の41.9%がNTT東西の卸を通じて提供されています。3社は完全に独立した3つの選択肢ではない、という構造は押さえておくだけの価値があります。 通信セクター全体の性格についてはディフェンシブ銘柄の考え方もあわせてご覧ください。

※この章の数値は 総務省 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ(令和7年度第4四半期・2026年3月末)別紙/NTT 2025年度 決算短信/KDDI 2026年3月期 決算短信/ソフトバンク 2026年3月期 決算短信 より


紛らわしい名前を整理しておく

この3社は、名前の似た会社・ブランドが多く、証券コードの取り違えが起きやすい領域です。最後に整理しておきます。

NTT(9432)とNTTドコモ。 上場しているのはNTT(9432)です。決算短信の上場会社名は「NTT株式会社」と記載されています。証券会社の画面や以前の記事では「日本電信電話」と表記されていることがありますが、同じ会社・同じ銘柄です。NTTドコモはNTTの子会社であり、単独では上場していません。ドコモの業績は、NTTの総合ICT事業セグメントのなかで開示されます。

NTT(9432)とNTTデータグループ。 NTTデータの事業は、NTTのグローバル・ソリューション事業セグメントに含まれます。NTTデータの企業分析も参考にしてください。

ソフトバンク(9434)とソフトバンクグループ(9984)。 これは別会社です。9434は国内の通信・デジタルサービスを手がける事業会社、9984は投資を主とする持株会社で、事業内容も値動きの性格もまったく異なります。本記事で扱っているのは9434のほうです。9984についてはソフトバンクグループの企業分析をご覧ください。

KDDI(9433)とau、UQ、沖縄セルラー。 auとUQはKDDIのブランドで、総務省統計の「KDDIグループ」にはKDDI・沖縄セルラー・UQコミュニケーションズが含まれます(沖縄セルラー電話は別途上場)。


まとめ

2026年3月期の決算短信と総務省の統計から、3社の違いを整理すると次のようになります。

事業構造: KDDIは個人向けが売上の78.3%を占める集中型、ソフトバンクは個人向け42.6%で5セグメントに分散、NTTは通信・IT・地域・不動産エネルギーの4本立てで、NTTデータを含むグローバル・ソリューション事業が33.0%を占めます。

利益の出方: 営業利益率はKDDI18.1%、ソフトバンク14.8%、NTT11.8%。売上規模とは順番が入れ替わります。3社とも、利益の伸びを牽引しているのは個人向け通信ではなく、法人・金融・海外の領域です。

市場ポジション: モバイルでは3社が競合しますが、固定回線ではNTT東西が光ファイバー設備の56.3%を持ち、FTTH契約の41.9%がその卸を通じて提供されています。3社は対等な3つの独立した存在ではありません。

株主還元: 配当性向はNTT42.0%、KDDI43.6%、ソフトバンク75.8%。KDDIだけが数値基準(連結配当性向40%超)を短信に明記しており、その分母は次期以降「調整後当期利益」へ変わります。ソフトバンクは数値目標を置かず継続的な増配を目指す方針で、75.8%は目標ではなく結果の数字です。

読み方の注意: 1株当たり配当金は株式分割の履歴が違うため3社で比べられません。KDDIの次期予想は調整後ベースのため他2社と同じ土俵に乗りません。NTTの自己資本比率の低下は銀行の新規連結による総資産の増加が主因です。投資キャッシュ・フローは設備投資額の代わりになりません。

「通信株は高配当で安定」という一文でまとめられがちな3社ですが、決算短信のセグメントまで下りると、稼いでいる場所も、株主への約束の仕方も、抱えているリスクの形も違います。銘柄を見るときは、どの数字を、どの定義で比べているのかを確認するところから始めるのが確実です。各社の詳細はNTT・KDDI・ソフトバンクの個別記事をご確認のうえ、最新の数値は必ず各社のIR情報でご確認ください。


よくある質問(FAQ)

Q1. NTT・KDDI・ソフトバンクは何が一番違いますか?

A. 事業の中身の散らばり方が違います。2026年3月期の外部顧客向け売上でみると、KDDIは個人向けのパーソナルセグメントが78.3%を占める一方、ソフトバンクは個人向けのコンシューマ事業が42.6%で、残りを法人・流通・メディアEC・ファイナンスの4つが分け合っています。NTTはドコモを含む総合ICT事業が42.7%、NTTデータを中心とするグローバル・ソリューション事業が33.0%です。同じ通信株でも、業績を動かす要素の数がまるで違います。

Q2. 3社の営業利益率を比べるとどうなりますか?

A. 2026年3月期の売上高営業利益率は、KDDIが18.1%、ソフトバンクが14.8%、NTTが11.8%です(各社の決算短信の開示値)。売上高そのものはNTTが14兆4,091億円と最大ですが、売上を利益に変える効率という点ではKDDIが3社で最も高くなっています。ただし利益率はセグメント構成によって変わるため、水準の高低だけで優劣を判断できるものではありません。

Q3. 配当性向はどう見ればいいですか?

A. 2026年3月期の連結配当性向は、NTTが42.0%、KDDIが43.6%、ソフトバンクが75.8%です(各社の決算短信の開示値)。数字の高低だけでなく、方針として何を約束しているかを併せて見る必要があります。KDDIは連結配当性向40%超の維持を短信に明記し、ソフトバンクは2027年3月期から2031年3月期の中期経営計画で継続的な増配を目指すとしています。指標そのものの意味は「配当性向とは?」の記事でご確認ください。

Q4. 1株当たり配当金を3社で比べてもいいですか?

A. 額面をそのまま比べることには意味がありません。株式分割の時期も比率も会社ごとに違うためです。KDDIは2025年4月1日付で1株を2株に、ソフトバンクは2024年10月1日付で1株を10株に分割しています(各社 決算短信の注記)。比べるのであれば、1株当たりの金額ではなく配当性向や配当金総額など、分割の影響を受けない指標を使うのが基本です。

Q5. 楽天モバイルの登場で3社のシェアはどれくらい減りましたか?

A. 2026年3月末の移動系通信の事業者別シェアは、NTTドコモ32.9%(前年同期比マイナス1.0ポイント)、KDDIグループ26.2%(同マイナス0.4ポイント)、ソフトバンク18.7%(同マイナス0.5ポイント)、楽天モバイル3.6%(同プラス0.4ポイント)です。同じ期間にMVNOが18.5%へプラス1.5ポイント伸びており、シェアの移動先として大きいのは楽天モバイルよりMVNOでした。

Q6. 通信株を3社に分散すれば分散投資になりますか?

A. 3社は同じ国内市場・同じ料金規制・同じ人口動態の下にあり、共通のリスク要因を多く抱えています。加えて固定回線では、光ファイバーの設備設置事業者別シェアでNTT東西が56.3%を占め、他社の光回線サービスの多くがNTT東西の卸を使って提供されています。3社が完全に独立した存在ではないという構造は、分散の効き方を考えるうえで押さえておく材料になります。最終的な判断はご自身の責任でお願いします。


情報源・参考資料

最終更新日:2026-09-17 / 次回見直し:四半期ごと(各社の決算発表のたび)


※本記事は「企業分析」を目的とした内容であり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。 ※投資は自己責任でお願いします。投資判断に迷う際はFP・証券会社等の専門家にご相談ください。 ※掲載情報は作成時点のものであり、最新情報は各社の公式IR情報をご確認ください。


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