信越化学工業(4063)と SUMCO(3436)は、どちらも半導体の土台になるシリコンウエハーを作る日本企業です。ただし会社の形はまったく違います。SUMCO はウエハー専業で、信越化学はウエハーを含む電子材料に加えて、塩化ビニル樹脂などの素材事業を持っています。この記事では、その違いが業績にどう出ているかを、両社の決算短信の実額で比べます。
信越化学とSUMCOの違い|ウエハー専業と多角化を決算資料で比較
はじめに
「信越化学と SUMCO は、どちらもウエハーの会社なのに、なぜ決算の数字がこんなに違うのか」と疑問に思った方に向けた比較記事です。
- 2社の事業の構成の違い(多角化とウエハー専業)
- 直近5期の売上高・営業利益・営業利益率の推移
- 半導体市況の波を、それぞれがどう受けたか
- 株主還元の方針の違い
- 比べるときに気をつけたい3つの点(決算期・セグメントの範囲・シェアの数字)
同じウエハーでも、SUMCO は市況の波をそのまま受け、信越化学は他の事業と合わせて受けます。直近はその差が利益率に大きく出ています。
信越化学工業の決算短信(2022年3月期〜2026年3月期・2027年3月期 第1四半期)、SUMCO の決算短信(2022年12月期〜2025年12月期・2026年12月期 中間期)、SUMCO の配当ページ
結論:2社の違いは3つ
2社の違いは、次の3つにまとめられます。
- 事業の構成:SUMCO は「高純度シリコン事業」の単一セグメントです。信越化学は4つのセグメントを持ち、ウエハーはそのうち電子材料事業の一部です。
- 利益の振れ幅:SUMCO の営業利益率は、5期で 24.9% から 0.3% まで動きました。信越化学(連結)は 24.7%〜35.5% の範囲でした(どちらも計算値)。
- いま利益を支えている事業:信越化学の直近期は、塩化ビニル樹脂などの生活環境基盤材料事業が大きく減益でした。代わりに電子材料事業が利益の半分を超えました。多角化していても、どの事業が支えるかは年によって入れ替わります。
「どちらが良いか」ではなく、同じ市況の波が、違う形の会社にどう届くかを見る比較です。
基本データの比較
| 項目 | 信越化学工業 | SUMCO |
|---|---|---|
| 証券コード | 4063 | 3436 |
| 決算期 | 3月 | 12月 |
| 報告セグメント | 4つ(電子材料/生活環境基盤材料/機能材料/加工・商事・技術サービス) | 1つ(高純度シリコン事業) |
| 直近期の売上高 | 2兆5,739億円(2026年3月期) | 4,096億円(2025年12月期) |
| 直近期の営業利益 | 6,352億円 | 13億円 |
| 直近期の営業利益率 | 24.7% | 0.3% |
| 直近期末の自己資本比率 | 78.7% | 51.3% |
| 直近期の年間配当 | 1株106円(配当性向41.9%) | 1株20円(純損失のため配当性向は表示なし) |
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※この章の数値は 信越化学工業 2026年3月期 決算短信/SUMCO 2025年12月期 決算短信 より(億円未満は切り捨て)
売上高の規模は、信越化学が SUMCO の6倍強あります。ただし信越化学の売上高にはウエハー以外の事業が含まれるので、この差は「ウエハー事業の規模の差」ではありません。ここを取り違えないことが、2社を比べるときの出発点です。
事業の構成の違い
SUMCO はウエハーだけを作る会社で、信越化学はウエハーを含む4つの事業を持つ会社です。決算短信のセグメント情報がそれをはっきり示しています。
SUMCO の決算短信は「当社グループは『高純度シリコン事業』の単一セグメントであるため、記載を省略しております」と書いています。つまり SUMCO の売上高と営業利益は、ほぼそのままシリコンウエハーの成績です。
信越化学は、次の4つのセグメントで開示しています。
| セグメント | 主な製品(決算短信の記載) |
|---|---|
| 電子材料事業 | 半導体シリコン、希土類磁石、半導体用封止材、フォトレジスト、マスクブランクス、合成石英製品 など |
| 生活環境基盤材料事業 | 塩化ビニル樹脂、か性ソーダ、メタノール、クロロメタン、ポバール |
| 機能材料事業 | シリコーン、セルロース誘導体、金属珪素、液状フッ素エラストマー、ペリクル など |
| 加工・商事・技術サービス事業 | 樹脂加工製品、技術・プラント輸出、商品の輸出入、エンジニアリング |
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※この章の数値・記載は 信越化学工業 2026年3月期 決算短信/SUMCO 2025年12月期 決算短信 より
見落としやすいのは、信越化学の「電子材料事業」はウエハーだけではないという点です。フォトレジストやマスクブランクスといった他の半導体材料、希土類磁石も同じセグメントに入っています。したがって、信越化学のウエハー単体の売上高や利益率は、決算短信からは分かりません。
業績の推移(直近5期)
5期の営業利益率は、SUMCO が 24.9% から 0.3% まで振れ、信越化学(連結)は 24.7%〜35.5% の範囲に収まりました。決算期が違うので、表は会社ごとに分けています。
SUMCO(12月期・単一セグメント)
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率(計算値) |
|---|---|---|---|
| 2021年12月期 | 3,356億円 | 515億円 | 15.4% |
| 2022年12月期 | 4,410億円 | 1,096億円 | 24.9% |
| 2023年12月期 | 4,259億円 | 730億円 | 17.2% |
| 2024年12月期 | 3,966億円 | 369億円 | 9.3% |
| 2025年12月期 | 4,096億円 | 13億円 | 0.3% |
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※出典:SUMCO 2022年12月期・2023年12月期・2025年12月期 決算短信(百万円の実額を億円未満切り捨てで表示。利益率は百万円の実額から計算)
売上高は 4,000億円前後でほぼ横ばいなのに、営業利益は 1,096億円から13億円まで減っています。SUMCO の 2025年12月期の決算短信は、その背景として次の点を挙げています。
- AI用半導体向けの先端品は強い需要が続いた一方、それ以外は顧客の在庫調整で回復が緩やかだった
- 200mm以下のウエハーは年間を通じて出荷が低調だった
- 先端300mmの生産能力を増やす設備投資で、減価償却費の負担が増えた
売上が減らなくても、固定費(減価償却費)が増えると利益は大きく削られる。専業メーカーの損益の形がよく表れている5期です。
信越化学工業(3月期・セグメント別)
| 決算期 | 電子材料 売上高/営業利益 | 生活環境基盤材料 売上高/営業利益 | 連結 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 7,089億円/2,447億円 | 8,571億円/3,177億円 | 32.6% |
| 2023年3月期 | 8,756億円/3,014億円 | 1兆3,080億円/5,413億円 | 35.5% |
| 2024年3月期 | 8,504億円/2,721億円 | 1兆102億円/3,219億円 | 29.0% |
| 2025年3月期 | 9,343億円/3,247億円 | 1兆415億円/2,914億円 | 29.0% |
| 2026年3月期 | 1兆157億円/3,445億円 | 9,813億円/1,648億円 | 24.7% |
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※出典:信越化学工業 2022年3月期〜2026年3月期 決算短信の「セグメント別売上高と営業利益」(売上高は外部顧客への売上高)。連結営業利益率は連結の売上高と営業利益から計算
この表から読めることは2つあります。
1つ目は、電子材料事業の利益が5期を通じて大きくは崩れていないことです。電子材料事業の営業利益は 2,447億円から 3,445億円の範囲でした。2024年3月期には 3,014億円→2,721億円と減りました。一方、SUMCO が大きく減益になった 2024年12月期・2025年12月期と時期が重なる 2025年3月期・2026年3月期は、どちらも増益です(営業利益÷外部売上高で計算すると、5期とも 32.0%〜34.8%)。ただし前述のとおり、このセグメントにはウエハー以外の材料も入っているので、ウエハーの利益率がこの水準だとは言えません。
2つ目は、直近の減益の主因が半導体ではなかったことです。2026年3月期の連結営業利益は前期比△14.4%の減益でしたが、セグメント別に見ると、電子材料事業は 3,247億円→3,445億円の増益でした。減ったのは生活環境基盤材料事業で、2,914億円→1,648億円(△43%)です。決算短信は、塩化ビニルについて北米で需要が弱含み市況が軟化したこと、アジアほかで価格の低迷が続いたことを挙げています。
逆に 2023年3月期は、生活環境基盤材料事業の営業利益(5,413億円)が電子材料事業(3,014億円)を大きく上回っていました。信越化学の中で利益を支える事業は、年によって入れ替わっています。
信越化学の強みそのもの(なぜ利益率が高いのか)は、信越化学工業はなぜ強いのかを整理した記事で詳しく扱っています。
シリコンサイクルの影響の受け方
半導体市況の波(シリコンサイクル)は、SUMCO の業績にはほぼそのまま出て、信越化学の業績には他の事業と合算されて出ます。上の2つの表を並べると、その違いが分かります。
- SUMCO は 2022年12月期をピークに3期連続で減益でした。事業が1つなので、ウエハーの市況がそのまま会社全体の数字になります。
- 信越化学の連結営業利益は 2023年3月期がピークで、翌期に大きく減りました。ただしこのときの減少は、電子材料事業(3,014億円→2,721億円)よりも、生活環境基盤材料事業(5,413億円→3,219億円)のほうが大きかったのです。
つまり、信越化学の多角化は「半導体の波を必ず和らげる」仕組みではありません。塩化ビニル樹脂などの市況にも別の波があり、2つの波の重なり方によって、連結の数字は大きくも小さくも動きます。
直近の四半期も確認しておきます。
- SUMCO の 2026年12月期 中間期は、売上高 2,150億円(前年同期比+4.7%)に対し、営業損益は 63億円の損失でした。会社は第3四半期累計でも営業損失 63億円を見込んでいます(会社予想であり、確定した実績ではありません)。
- 信越化学の 2027年3月期 第1四半期は、電子材料事業の営業利益が 831億円→1,019億円、生活環境基盤材料事業が 528億円→348億円でした。会社は通期で営業利益 7,000億円(前期比+10.2%)を見込んでいます(会社予想であり、確定した実績ではありません)。
※この章の数値は SUMCO 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信/信越化学工業 2027年3月期 第1四半期決算短信 より
業績予想の出し方にも違いがあります。SUMCO は通期ではなく「翌四半期累計期間の連結業績予想を開示する方針」をとっています。ウエハーの受注が短い周期で動く専業メーカーらしい開示の仕方です。
装置の側から半導体の工程を見たい方は、アドバンテスト・レーザーテック・ディスコの比較も参考になります。こちらは装置の比較で、本記事は素材(ウエハー)の比較です。
株主還元の方針
信越化学は配当性向の目安を数字で示し、SUMCO は利益水準などを総合的に勘案する方針です。両社の公表資料の記載をそのまま並べます。
- 信越化学:「40%前後の配当性向を中長期的な目安として安定的な配当に努めています」。あわせて、2026年3月期に 5,000億円の自己株式を取得し、新たに 2,500億円の自己株式取得の実施を発表しています。
- SUMCO:「各事業年度における利益水準、次期以降の見通し、設備投資に係る資金需要および内部留保の状況等を総合的に勘案した上で、株主への利益配当を実施していく方針」。2026年12月期の中間配当は1株10円で、期末配当は未定です。
5期の配当の総額と配当性向は次のとおりです。
| 決算期 | 信越化学 配当金総額/配当性向 | 決算期 | SUMCO 年間配当/配当性向 |
|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 1,661億円/33.2% | 2021年12月期 | 41円/30.2% |
| 2023年3月期 | 2,024億円/28.7% | 2022年12月期 | 81円/40.4% |
| 2024年3月期 | 2,000億円/38.5% | 2023年12月期 | 55円/30.1% |
| 2025年3月期 | 2,088億円/39.3% | 2024年12月期 | 21円/36.9% |
| 2026年3月期 | 1,976億円/41.9% | 2025年12月期 | 20円/-(純損失) |
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※この章の数値は 両社の各期 決算短信「配当の状況」/信越化学工業 2026年3月期 決算短信「利益配分に関する基本方針」/SUMCO「株式配当・分割」ページ より
信越化学は 2023年4月1日付で1株を5株に分割しているため、1株あたりの配当額では年をまたいだ比較ができません。そのため信越化学は配当金の総額で示しています。SUMCO の1株配当は、利益の増減に合わせて 81円から20円まで動いています。
配当や株価の水準を評価するときは、PER・PBR・ROEなどの投資指標もあわせて確認してください。
比べるときの注意点
2社を比べるときに、つまずきやすい点を3つ挙げます。
決算期が違う
信越化学は3月期、SUMCO は12月期です。「2025年度」と書かれた数字を並べると、3か月ずれた期間を比べることになります。本記事では表の見出しに決算期を明記しています。
セグメントの範囲が違う
SUMCO の数字はほぼウエハーの成績ですが、信越化学の電子材料事業にはウエハー以外の材料が含まれます。「信越のウエハーの利益率」と「SUMCO の利益率」を直接比べることはできません。
シェアの数字は出典を確かめる
ネット上の記事には、2社の世界シェアを何%と書いたものが多くあります。ただし、両社の決算短信には世界シェアの数字が載っていません。本記事では出典を確かめられる数字が見つからなかったため、シェアの数字は書いていません。調べるときは、数字にどの調査会社の、いつの調査かが示されているかを確認してください。
決算短信のどこを見ればセグメント別の数字が分かるかは、決算短信の読み方で解説しています。営業利益と経常利益の違いは営業利益・経常利益・純利益の違いをご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 信越化学とSUMCOのいちばん大きな違いは何ですか? A. 事業の構成です。SUMCOは「高純度シリコン事業」の単一セグメントで、ウエハー専業です。信越化学は電子材料・生活環境基盤材料(塩化ビニル樹脂・か性ソーダ等)・機能材料・加工・商事・技術サービスの4セグメントを持つ多角化企業で、シリコンウエハーは電子材料事業の一部です(出典:両社の決算短信)。
Q. 信越化学とSUMCOの利益率はどのくらい違いますか? A. 2026年3月期の信越化学の営業利益率は24.7%、2025年12月期のSUMCOの売上高営業利益率は0.3%でした。5期で見ると、SUMCOは24.9%(2022年12月期)から0.3%まで振れ幅が大きく、信越化学は24.7%〜35.5%(計算値)の範囲でした(出典:両社の決算短信)。決算期が3月と12月で異なる点に注意してください。
Q. 信越化学のシリコンウエハー事業だけの業績は分かりますか? A. 決算短信では分かりません。信越化学はシリコンウエハーを、希土類磁石・フォトレジスト・マスクブランクスなどと合わせた「電子材料事業」として開示しています。電子材料事業の2026年3月期の売上高は1兆157億円、営業利益は3,445億円です(出典:信越化学工業 2026年3月期 決算短信)。
Q. SUMCOが2025年12月期に大きく減益になったのはなぜですか? A. SUMCOの決算短信は、AI用の先端品は強い需要が続いた一方、先端品以外は顧客の在庫調整で回復が緩やかで、200mm以下は低調な出荷が続いたこと、先端300mmの能力増強投資で減価償却費の負担が増えたことを挙げています。営業利益は369億円から13億円へ減りました(出典:SUMCO 2025年12月期 決算短信)。
Q. 信越化学とSUMCOのシェアは何%ですか? A. 本記事では書いていません。両社の決算短信には世界シェアの数字が載っておらず、出典を確かめられる数字が見つからなかったためです。ネット上の記事には数字が出てきますが、出典が示されていないものが多いので、調べるときは出典の有無を確認してください。
Q. 配当の方針はどう違いますか? A. 信越化学は「40%前後の配当性向を中長期的な目安」として安定的な配当に努めると明記しています。SUMCOは利益水準・次期以降の見通し・設備投資の資金需要・内部留保を総合的に勘案して配当する方針で、2026年12月期の期末配当は未定としています(出典:両社の決算短信・SUMCO 配当ページ)。投資判断はご自身でお願いします。
まとめ
信越化学と SUMCO の違いを一言で言うなら、「同じウエハーの波を、1つの事業で受けるか、4つの事業で受けるか」です。
- SUMCO はウエハー専業で、市況と設備投資の負担がそのまま利益に出ます。直近5期の営業利益率は 24.9% から 0.3% まで動きました。
- 信越化学はウエハーを含む電子材料事業に加えて、塩化ビニル樹脂などの事業を持ちます。直近期は電子材料事業が増益、生活環境基盤材料事業が大きく減益で、利益を支える事業が入れ替わりました。
- 信越化学のウエハー単体の成績は決算短信からは分からず、世界シェアの数字も両社の決算短信には載っていません。比べるときは、決算期とセグメントの範囲をそろえて見ることが大切です。
どちらの会社も、半導体市況や素材の市況によって業績が大きく変わります。本記事は過去の決算の整理であり、今後の業績や株価を示すものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
情報源・参考資料
- 信越化学工業株式会社 決算短信(2022年3月期〜2026年3月期・2027年3月期 第1四半期)(売上高・営業利益・セグメント別の数値・配当の状況・利益配分に関する基本方針)
- 株式会社SUMCO 決算短信(2022年12月期・2023年12月期・2025年12月期・2026年12月期 中間期)(売上高・営業利益・セグメント情報・配当の状況・今後の見通し)。各期の PDF:2022年12月期/2023年12月期/2025年12月期/2026年12月期 中間期
- 株式会社SUMCO 株式配当・分割(配当の方針・2026年12月期の1株配当)
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※本記事は「企業分析」を目的とした内容であり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。 ※投資は自己責任でお願いします。 ※掲載情報は作成時点のものであり、最新情報は各社の公式IR情報をご確認ください。
